接着コラム
【Glue Talk】電動化する航空宇宙分野と eVTOL がバッテリー設計を再定義する3つのポイント
25.12.12

本記事はH.B. Fullerのウェブサイトに掲載された技術ブログを積水フーラーが翻訳したものです。
記事原文は以下のリンクからご覧いただけます。
▶Three Ways Electrified Aerospace and eVTOL are Redefining Battery Design
執筆者:Mike Cooper(エレクトロニクス&新エネルギー担当 グローバル事業開発マネージャー)
電動航空機がファンタジーから現実へと移りつつある今、バッテリーにはこれまで以上に厳しい性能が求められています。しかも、その要求は自動車やスマートフォンとはまったく異なります。
たとえば、電動航空機は離陸時に非常に大きな電力を一気に必要とします。この高出力は、機体が巡航高度に達するまでのわずかな時間だけ持続すればよいという特徴があります。一方で、同じバッテリーはその後、長時間のフライトにわたって徐々に、そして予測可能な形で放電していくという、まったく別の性質のニーズにも応えなければなりません。さらに言えば、バッテリーの重量が1グラム増えるだけでも航空機全体の性能に大きく影響してしまいます。
こうした異なる、時には相反するような要求は、バッテリーのデザイナーにとって大きな課題となります。
瞬時に最大限のエネルギーを出力できるように設計するには、「高いパワー密度」を重視しなければなりません。一方、巡航中のフライトを維持するためにできるだけ長くエネルギーを供給できるようにするには、「高いエネルギー密度」を目指す必要があります。そして、これらすべての設計要件を、可能な限り軽量な形で実現しなければならないのです。
バッテリーの軽量化は極めて重要
重量は航空機にとって決定的に重要な要素であり、電動航空機のバッテリーデザインに関わるあらゆる判断の基盤となります。かつての重い鉛バッテリーはすでに過去のもので、軽量化の面でも、性能面でも好ましい方向へ進化しています。現在、バッテリー研究者たちは、構造材としての役割とエネルギー貯蔵の役割を兼ね備える革新的な素材の探索を進めています。
H.B. Fuller のバッテリー用途のスペシャリストであるマイケル・クーパー氏はこう述べています。
「航空機用バッテリーの設計は、一般的なEV用バッテリーとはまったく別物です。」
「従来のEVでは、スチールやアルミといった金属が多用されます。しかし航空機の場合は、同等以上の強度を保ちながら、より軽い材料が求められるのです。」
そこで注目されているのが、構造バッテリーコンポジット(SBC)と呼ばれる新しい技術です。これは、荷重を支える構造材でありながら、同時にエネルギー貯蔵機能も備えるという、航空機用途に適した素材です。
クーパー氏はさらに続けます。
「カーボンファイバーで作られたバッテリーハウジングなど、非常に特殊な素材が使われ始めています。中には、長さ3〜4メートルのバッテリーもあります。これは1メートル四方程度の自動車用バッテリーとは比べものになりません。」
こうした革新的なバッテリーは、航空機の限られた内部スペースに隙間なく配置することが可能で、機体全体に高密度に組み込まれます。
クーパー氏いわく、
「エンジニアたちは、バッテリーを搭載できる空きスペースをいたるところに探しています。胴体や翼など、利用可能な空間にバッテリーを二重、三重に積むこともあります。バッテリーパックとそのハウジングを合わせると、3,000セルを超えるものもあるほどです。」
軽量化に加え、設計者たちは高エネルギー密度と高パワー密度の両立も求めています。
高エネルギー密度のための設計
高エネルギー密度バッテリーの設計では、単位体積あたりにできるだけ多くのエネルギーを蓄えることを目指します。そのためには、空間を最大限に活用するようセルを高密度に配置する必要があります。こうした高密度配置のセルでは、より多くのエネルギーを蓄えられる材料や、活物質を多く含む(高容量化のために厚くした)電極が用いられ、これによってより多くのエネルギーを保持できるようになります。
しかし、電極が厚くなると、熱が伝わりにくくなるという問題も生じます。高エネルギー密度のバッテリーでは、高出力型バッテリーほど急速な熱管理は求められないものの、発生する熱の蓄積は適切に制御する必要があります。
この熱問題に対処するために、接着剤やコーティング材が重要な役割を果たします。
特に21700サイズの円筒形リチウムイオンセルでは、セル間の間隔が非常に狭い構造が必要となるため、この密着した配置が多くの熱を生み出します。
そこで、熱伝導性接着剤が活躍します。
これらの接着剤はセルからヒートシンクへ熱を効率よく逃がす“導線”としての役割を果たします。また、熱伝導性接着剤は構造的な強度も提供するため、航空機内の振動にも耐えられるバッテリー設計が可能になります。(図1)。

サーマルインターフェース材料(TIM)は、熱の蓄積を抑えるために重要な役割を果たします。
クーパー氏は次のように説明します。
「サーマルインターフェース材料は、実は二つの働きを担っています。万が一、熱暴走が起きた場合でも、高い難燃性を発揮してくれるのです。」
接着剤、コーティング材、そしてTIMのカスタム設計を検討しているバッテリーデザイナーは、まず多くの場合、 H.B. Fuller の技術者やエンジニアのチームと議論を始めます。設計エンジニアは通常、必要とする特定の熱伝導率や熱抵抗の値を持っており、H.B. Fuller の技術者たちは、そうした要件に加えて、セルの密度や接着剤を塗布するプロセスなども考慮し、航空機の要求を満たすための最適なソリューションを作り上げていきます。
高出力密度のための設計
高出力密度のバッテリー設計とは、「過熱させることなく高い電流を瞬時に供給する」ことを意味します。特に垂直離着陸機(eVTOL)は、電動航空機の中でも電源に対して非常に厳しい要求を突きつけます。
H.B. Fuller の ePower & Clean Energy グループのビジネスマネージャー、フロリアン・シュレグル氏はこう述べています。
「垂直離陸を開始する際、eVTOL のバッテリーは、機体を浮かせるために大量のエネルギーを一気に放出する必要があります。そこで鍵を握るのが高出力密度です。」
高出力密度の設計では、材料を低抵抗化し、電気化学反応をより速くするよう最適化するとともに、発生した熱を効率的に逃がすことに細心の注意を払う必要があります。
そのための設計手法としては、以下が挙げられます。
- セル間隔をより狭くする
- 電極を薄くする
- 高電流を効率的に分配できる強固なバスバーを採用する
- より高性能な冷却システムのためにスペースを確保する
また、熱管理を強化するために、熱伝導性接着剤がTIM(サーマルインターフェース材料)と併用されることもあります。これにより、熱の偏り(サーマルグラデーション)を抑え、性能を安定させることができます。
接着剤、コーティング剤、シーラントは、高エネルギー密度と高パワー密度の両方に対応するため、熱伝導性を備えつつ大きく効率的なバスバー同士が絶縁されるように設計されている必要があります。
シュレグル氏は次のように強調します。
「接着剤、ポッティング材、コーティング材については、高いレベルの電気絶縁性が極めて重要です。セルのタブ同士やサブモジュール間で電気アークや意図しない導通が起きないようにするためです。」
こうしたアーク放電や不適切な導電経路は、後々腐食の原因となるだけでなく、高電圧環境では非常に危険です。
その他の設計上の留意点
電動航空機のバッテリーは、極端な温度環境でも性能を維持しなければならないため、断熱性を持つコーティングが必要です。
クーパー氏はこう説明します。
「たとえば電気自動車のバッテリーパック周辺の素材は、-40℃から80℃程度の範囲に対応していれば十分です。しかし航空機の場合、その動作温度はさらに大幅に低く、一般的に −55℃や −60℃まで下がります。」
バッテリー用コーティングは、強い化学物質との接触にも耐えられなければなりません。
クーパー氏は続けます。
「自動車の下回りで必要とされるコーティングとはまったく別物です。熱管理、シーリング、保護のための接着など、航空機ではまったく別次元の工学レベルが求められます。寒冷地では除氷作業が必要になり、その際に非常に強い化学薬品がバッテリーに触れる可能性があります。」
バッテリー設計では、飛散した液体からの汚染にも対処しなければなりません。
クーパー氏はこう指摘します。
「航空機のブレーキフルードは、材料にダメージを与えるほど化学的に強い液体です」
バッテリー設計は、科学的知識と技術、そしてさまざまな分野の専門家が関わる複合的な取り組みです。電動航空機やeVTOLで得られた知見は、今後、他のすべてのバッテリー設計にも応用されていくことでしょう。
バッテリー設計について議論する準備ができたら、ぜひ H.B. Fuller の技術者・エンジニアにご相談ください。詳細を伺えることを楽しみにしています。
※積水フーラーのEVバッテリー向け接着剤の詳細は機能材・EVバッテリーのページでご確認ください。
※EVバッテリーに関する製品は、積水フーラーの機能材事業部が担当しております。
ご質問やご要望がありましたら、こちらの各種お問い合わせフォームからご連絡ください。
