接着コラム
【Glue Talk】EVバッテリー設計の最新トレンドを読み解く
26.06.03

本記事はH.B. Fullerのウェブサイトに掲載された技術ブログを積水フーラーが翻訳したものです。
記事原文は以下のリンクからご覧いただけます。
▶ Navigating Electric Vehicle Battery Design Trends
執筆者:Florian Schloegl(ePower & Clean Energy EIMEA担当ビジネスマネージャー)
かつて、電気自動車(EV)での長距離ドライブは現実的ではありませんでした。しかし今日では、バッテリー交換ステーションの普及(一部の国)やガソリンエンジン車に匹敵する航続距離の大幅な延長など、技術革新がその常識を塗り替えています。スコットランド北部の海岸線を走り抜けたり、パリとロンドンを無充電で往復したりすることも、もはや夢ではありません。
材料と設計の革新は、EVの航続距離を着実に伸ばしています。ただし、どのような技術革新においても、安全性と長期的な信頼性を損なわないよう、トレードオフを慎重に見極めることが不可欠です。本稿では、セル・トゥ・モジュール型、セル・トゥ・パック型、セル・トゥ・シャシー型という3つのバッテリー設計方式の違いを整理し、EVバッテリーをめぐる最新トレンドと、接着剤が果たす役割について解説します。
セル・トゥ・モジュールEVバッテリー設計とは?
従来のEVバッテリーは、個々のセルをモジュールに収め、複数のモジュールをパックに組み上げ、そのパックを車両のシャシーに搭載するという入れ子構造をとっています。この構造により、走行中の振動や衝撃に対してセルを安定的に保持できます。また、保守性の高さもこのセル・トゥ・モジュール設計の大きな利点です。例えば、バッテリー管理システムが異常なセルを検知した場合、整備担当者はパックを開けて該当モジュールのみを交換すれば済みます。
接着剤がEVバッテリーの保守性を高める理由
他の方式と比べると、セル・トゥ・モジュール型は製造工程が多く(表1)、モジュールケースの分だけ重量も増すため、航続距離に影響します。それでも、モジュール単位での交換・修理が容易である点は、この方式が選ばれ続ける大きな理由のひとつです。
公共交通車両のように稼働率が最優先される用途では、航続距離よりもダウンタイムの短さが重要です。セル・トゥ・モジュール型であれば、故障モジュールをその場で交換できるため、車両を迅速に復帰させることができます。
表1.セル・トゥ・モジュール型、セル・トゥ・パック型、セル・トゥ・シャシー型の比較
| 特性 | セル・トゥ・ モジュール型 | セル・トゥ・ パック型 | セル・トゥ・ シャシー型 |
| 軽量化 | ✓ | ✓ | |
| 製造工程の簡素化 | ✓ | ✓ | |
| 修理の容易さ | ✓ | ||
| バッテリー交換に対応 | ✓ | ✓ | |
| 構造用接着剤または補強部材が必要 | ✓ | ✓ | |
| 熱管理が必要 | ✓ | ✓ | ✓ |
| 電気(系統の)管理が必要 | ✓ | ✓ | ✓ |
この修理性を支える重要な要素のひとつが、バッテリーパックの開封・再封を可能にする接着剤技術です。H.B. FullerのEV Seal接着剤シリーズは、開封・再封が可能なEVバッテリーパックを実現します。本シリーズはホットメルトタイプのブチル系接着剤であり、密封時には湿気・結露・外部環境からバッテリーパックをしっかり保護します。一方、必要に応じて剥離・再塗布が可能なため、メーカーはパックを開封してモジュールの修理や交換を行うことができます。
セル・トゥ・パックEVバッテリー設計とは?
セル・トゥ・パック型のEVバッテリー設計は、モジュールを介さずに、バッテリーセルをパックに直接搭載してシャシーに取り付けます。モジュールケースをなくすことで軽量化が実現し、空いたスペースにセルを追加搭載できます。軽量で高出力のバッテリーは航続距離の延長に直結し、消費者ニーズへの対応という点でも重要な進化です。さらに、セル・トゥ・パック型はバッテリーの組み立て工程を大幅に削減でき、生産速度の向上とコスト低減も期待できます。
H.B. Fullerのグローバル事業開発マネージャーであるマイケル・クーパーは、「メーカー各社はバッテリーの重量と構造的な複雑さをできる限り軽減しようと努めています。モジュールからパックへの移行は、その大きな一歩であり、材料重量の大幅な削減とともにエネルギー密度の向上も実現します」と話しています。
セル・トゥ・パック型への移行は、自動車メーカーの生産工程を簡素化し、消費者にパワフルで軽量な車両を提供します。ただし、モジュールがなくなる分、構造強度を確保するための技術的な工夫が求められます。メーカーによっては金属製の補強部材をバッテリーパックに組み込む場合もありますが、H.B. FullerのEV Bondシリーズのような構造用接着剤を活用することで、バッテリー全体を一体化し、走行中の振動や外部環境による負荷に耐える堅牢な構造を実現することができます。
高性能EVバッテリーに求められる高性能な熱管理接着剤
セル・トゥ・パック型EVバッテリーは、セルが密集しているため、動作温度の管理がとりわけ重要になります。EVバッテリーセルの温度が低すぎると出力が低下し、高すぎると劣化が加速するうえ、最悪の場合は熱暴走による火災を引き起こします。セル・トゥ・パック型EVバッテリーにおいては、内部の温度を65°C以下に保つことで、過熱を防ぐことができます。
H.B. FullerのePower/Storageグローバルマーケットマネージャーであるフロリアン・シュレーグルは、「バッテリーや関連電子機器の高性能化が進むにつれ、動作中に発生する熱量も増大します。電子部品から熱を除去するためには、高度な熱管理と高性能な熱伝導性接着剤および封止材が欠かせません」と話しています。
H.B. FullerのEV Protectシリーズは、熱暴走を封じ込めて火災の延焼を防ぐ難燃性封止材です。この発泡封止材は、液状で塗布すると膨張してバッテリーセルを包み込みます。この軽量な発泡体は競合製品よりも密度が低く、準構造材としてバッテリー全体を一体化します。また、H.B. Fuller® EV Protect 4006 SFRは同カテゴリーでは初の製品であり、競合品と比べて格段に速く熱の伝播を遮断します。
クーパーは、「H.B. Fuller® EV Protect 4006 SFRは、気密性、電気絶縁性、熱暴走防止など、バッテリー製造で求められるこれらのニーズを満たす、業界の基準となる製品です」と話しています。
セル・トゥ・シャシーEVバッテリー設計とは?
セル・トゥ・シャシー型では、バッテリーセルを車両のシャシーに直接搭載します。この構成ではパックもモジュールも不要になるため、製造工程はさらに簡素化され、さらなる重量削減とスペース効率の最大化が実現します。また、シャシー自体がバッテリーの構造部材を兼ねるため、別途補強が不要になるという利点もあります。
一方で、接着剤やセルなどの構成材料には、本来の機能に加えて荷重を支える強度も求められます。また、バッテリーへのアクセスには車体下部の全分解が必要になるため、3方式の中で最も修理・交換が困難です。EVバッテリーは一般的に7〜8年で性能が低下することを考えると、車両の寿命内に複数回の大規模な分解作業が生じる可能性があります。
セル・トゥ・シャシー設計における接着剤の構造補強と熱管理
セル・トゥ・シャシー型では、多くの場合、接着剤が複数の機能を同時に担うケースがあります。セルを固定する封止材には、構造強度の確保に加え、理想的には熱伝播の抑制機能も求められます。H.B. FullerのEV Bondシリーズは堅牢な構造強度を持ち、金属とプラスチックといった異種基材の接着にも対応します。特にEV Bond 300は、バッテリーセルの昇温・降温に伴う熱膨張・収縮に追従する機能を備えており、接着性能を維持しながらセルを所定の位置に保持することができます。
セル・トゥ・シャシー型もセルが密集しているため、高度な熱管理が不可欠です。H.B. FullerのEV Thermシリーズをはじめとする接着剤は、セルと冷却システムの間で効率よく熱を移動させ、熱のこもりを防いでバッテリー性能を最大限に引き出します。
さらに、EV Thermシリーズにはバッテリー部品間の電気を遮断する誘電体コーティング製品も含まれています。これにより、短絡やアーク放電といった電気的トラブルを防ぎ、安全性の向上に貢献します。これらの製品はスプレー塗布で施工できるため製造工程が大幅に簡素化され、薄膜での施工が可能なことから材料コストの削減にもつながります。
EVエネルギー貯蔵をめぐるその他のトレンド
過去10年でEVへの需要は急速に拡大しており、専門家はバッテリー駆動EVの販売がこの先も成長を続けると予測しています。この分野におけるイノベーションの多くは、より安価で安全、かつ高性能な車両を求める消費者ニーズが原動力となっています。特に、ガソリン車に匹敵する航続距離と充電時間の短縮への要求は強く、こうしたニーズを背景に業界では以下のトレンドが加速しています。
- 設計や材料の見直しによる軽量化と航続距離の延長
- 浸漬冷却によるリチウムイオン電池の安全性と熱管理の向上
- 封止材から誘電性液体への置き換えによる急速充電の実現
- 必要時剥離(オンデマンド・デボンディング)によるEV生産の持続可能性向上
- バッテリー設計の標準化によるパックコストの低減
さらに、バッテリーの寿命末期への対応は消費者にはなじみの薄いテーマですが、接着剤メーカーや自動車メーカーにとっては重要な課題です。使用済みバッテリーはどう処理されるのか、リサイクルは可能か、セルを別用途に転用するにはどう分解すればよいのか——こうした問いへの答えを業界全体で模索しています。
持続可能な活用策のひとつとして注目されているのが、自動車用バッテリーとしての寿命を終えたモジュールやパックの二次利用です。自動車用バッテリーは容量が約80%残った時点で交換されることが多く、まだ相当の蓄電能力を持っています。こうした「古い」バッテリーは、電力網の安定化や家庭用エネルギー貯蔵システム(ESS)といった、車両ほど設置スペースに制約を受けない用途への転用が有望視されています。
EVバッテリー設計の課題を解決するために
EVのエネルギー貯蔵技術がどのように進化しようとも、バッテリーの保護・密閉・接合・熱管理を支える接着剤の役割は変わりません。急速冷却を例に考えてみましょう。自動車メーカーがバッテリーセルを発泡体ではなく誘電性液体で覆って急速冷却を行う場合、バッテリーユニットを一体化させるためには、高い接着強度と構造特性を備えた耐薬品性接着剤が必要となります。その形状や機能が変わっても、接着剤はバッテリー設計の要であり続けます。
H.B. Fullerは、今日のバッテリー設計課題はもとより、次世代の要求にも応える接着剤・シーラントの開発に取り組んでいます。現在はH.B. Fuller® EV Protect 4006 SFRをはじめとする先進製品群を通じて、将来はお客様との長期的なパートナーシップを通じて、課題解決に貢献してまいります。H.B. Fullerのエンジニアは、バッテリーのコンセプト設計段階——量産開始の数年前——からお客様と緊密に連携し、試作・量産のあらゆるフェーズで想定外の課題に対応します。
シュレーグルは、「H.B. Fullerは仕様変更や改良への対応力を持つとともに、プロジェクトの初期段階からお客様と協働できる専門知識と実績を備えています。私たちは、有限要素解析(FEA)、材料特性データ(マテリアルカード)、接着剤を考慮した設計、評価試験、プロセス開発など、幅広い側面からお客様の開発を支援します」と話しています。
H.B. Fullerとの協業により、接着剤塗布装置(ディスペンサ)メーカーや世界各地の生産拠点へのアクセスが可能になります。ポリウレタンやアクリレートといった汎用技術に加え、幅広い接着剤技術を社内に保有しているため、既成概念にとらわれない解決策の検討・提案が可能です。それぞれの用途に最適な解決策を見つけるため、H.B. Fullerはお客様と共に取り組みます。
※積水フーラーはオリジナル製品だけでなくH.B. Fuller品も一部取り扱っており、ご紹介が可能です。
モビリティ分野の詳細は、機能材・モビリティのページでご確認ください。
※本記事で紹介している各種ソリューションは、積水フーラーの機能材事業部が担当しております。
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